中村-
ホームページに「見積もりポリシー」というページを作るための対談ということなんですが、熱処理を見積もりする時、どういうことを気にしてます?
藤嶋-
図面とメールの文で、相手が何を望んでいるのか、かな。
千葉-
基本的なことですけど、図面の記載内容を確認します。FAX通すと文字が読みにくくなったりもするので・・・
熱処理前後の工程
藤嶋-
あとは熱処理前後の工程だね。熱処理の見積もりだけでもいいんだろうけど、材料によって特長が違うので、気にしてますね。後工程でめっきや表面処理があるのかとか。
中村-
そうですよね。「ざっくりでいいから見積もりお願い」と言われて、でも図面に公差がすごく厳しく書かれていて、これ、いつ仕上げるの?この公差仕上げて熱処理だと、また公差はずれちゃうよね、と思ったり。
藤嶋-
「硬さ」が低い調質の場合、素材のときに熱処理して、それから仕上げれば工数が減るじゃないですか。それを知らないお客様だと、粗加工して調質して仕上げっていう工程を踏む場合も多いので、こういう工程で進めればコストダウンにもなりますよって。
千葉-
形状にもよりますよね。先日あったのが、S50Cの油焼き入れで「硬さ」は低いんですが、図面見たら結構ガバっとコの字に取る形になっていて。そういうの素材時点で処理しても、加工したら中の「硬さ」ってあまり保証できないじゃないですか。そういう図面は、粗加工してから熱処理の方が良いですよね。最終工程でコーティングがあり、それを加工先が認識していなくて後からトラブルになったという事例もよく聞くので、後工程は気になりますね。
中村-
それは、窒化やコーティングより高い温度で前処理しておかないと、寸法動くよね。
違和感
藤嶋-
図面みて、閃くことってあるじゃないですか。たとえば図面でS45Cで窒化になっていれば、熱処理履歴を確認したり、あと加工だと、そこまでの公差が本当に必要なのかどうか、オーバースペックな場合もあるじゃないですか。
中村-
この材料で、どうしてその処理なの?と思う場面もありますね。例えば、NAK80の焼入れとか。
千葉-
先日ありました。PXA30(大同特殊鋼材)、HRC30前後のプリハードン鋼なのですが、HRC40焼入れ焼戻しって書いてあって。
藤嶋-
それ、すでにHRC30程度の硬さがあるからね。焼き入れするならSCM440で十分だよ。
中村-
SCM435で浸炭で出したら折れたというお客様が相談に来られたこともあります。SCM435は浸炭やる材料じゃないのに。
藤嶋-
ですね。お客様にもよると思いますけど、うちに見積もりだすと「うるさい」と思っている方もいると思いますよ、おそらく。いろいろ聞くから。笑
千葉-
最初は「うるさいな」と思っていたかもしれませんが (笑)「注意事項を前もって教えてくれるからよい」「困ったら武藤工業に聞いておけば大丈夫!」と言っていただけるお客様も岩手県で増えてきています。
S45C
中村-
材料の話をすると、S45Cが世の中で一番広まっている材質ですよね。熱処理すると硬くなるし、値段も安いし。割と選択されると思うけど、でもS45C、熱処理って大変じゃない?
藤嶋-
S45Cは、設計者は硬さがHRC45程度は入るだろうと思っているんですよね。図面は、教科書どおりに書かれている場合が多いので、その辺りも注意が必要ですね。
中村-
S45Cは、熱処理後の「硬さ」が場所によって違うじゃないですか。でも図面上で、『ここ測ったら「硬さ」いくつ』という指定がないですよね。見たことあります?
藤嶋-
ないですね。
千葉-
一度見たことあります。ここで測定してね、と記してあった。
中村-
S45Cって熱処理の前にお客様に伝えなければならない注意事項多くなりません?お客様と話すときも『そんなに「硬さ」入りませんよ』、からはじまる…言い切るのが難しいですよね。
藤嶋-
S45Cは基本的に硬さを求めるのではなく硬さがHB2001~269で靭性重視で使うことが多いんです。おそらく、材料の選定自体で間違っていないのかな?硬さがほしいのであれば。
中村-
コスト重視なのでは?
千葉-
コストダウンの為に、SK材からS45C材へ材質変更してトラブルになったというメーカーの話を聞いたことがあります。試作でうまく行ったからと、量産したのですが、「硬さ」が足りないと大騒ぎになったらしくて。
中村-
「硬さ」はいってしまう場合もあるから…熱処理の「硬さ」を保証できない材質なのにコストダウンで使われる。S45Cって本当に難しい。
まとめ
中村-
熱処理は前処理とも、後加工とも繋がっていて、それだけで成り立つものではない。
藤嶋-
そうですよ、熱処理だけで見積もり出すのは簡単でしょ。計算して値段出すだけだから。でも前後のことも検討し提案して、よい熱処理を提供し続けないと…
千葉-
そうですね。何も気にしないなら見積りもすごく簡単。
藤嶋-
簡単なことです。図面に記載されていることはもちろん図面だけでは分からないことも検討し提案しないと。
千葉-
自分も工場長に教えてもらって、最初にびっくりしたのが「こんなの油焼きしたら製品にならないから窒化だ。そんなのひん曲がってどうしようもないから」って言っているのを聞いて、処理ごと変えちゃうんだ、って。
藤嶋-
製作前の相談なら良いのですが、熱処理前まで加工されてあって・・・その時点で使えるものにしなければならないと考えると、そういう提案もしますね。使えない製品にしてしまっては元も子もないので。
中村-
変形の他にも、焼入れしたら必ず変寸が起きるので、そういったことも考えてものづくりをして頂かなければならない。だから、なるべく早めに相談してくれることがベストですね。